考え中。

現在は、椋崎という名前で活動中。

無限交響曲 第五話

 三木 崇彦を結成された自警団――エレファントは、自作の象の缶バッジを持ち歩き、それらを公布してトレードマークとした。
 エレファント所属の証を持つ生徒は、団長である三木から経費として毎月お小遣いを貰い、エレファントによる活動を強化する為に浪費させられる。
 トランシーバー、エアガン等々……。自警の為の武装を持ち歩く様になった、元いじめられっ子たちは、いつの間にか校内での立場を強め始めた。
 また、裏切り者が現れない様に情報網が張り巡らされる様になり、エレファントという組織は、いつしか巨大なものになりつつあった。
 そんな中、伊丹だけは鬱屈とした感情を抱えていた。

 それから、丁度、夏休みがはじまり、伊丹は母親の実家へ、四国の小さな村に帰郷していた。
 伊丹 圭は幼少時、ひどい事故に巻き込まれて入院生活を送ったことがあり、その折、母親が新興宗教団体に傾倒してしまった。
 それからずっと、少年の両親の心は離れ離れであり、だから、彼は父親のほうが好きだった。そっちの方に引き取られたかった、とすら思っていた。
 でも、帰郷した時に会える親戚のおじさんの事は好きだった。
 木漏れ日が差す田舎の日本家屋。庭が見える客間のテレビで、ビリー・ワイルダーのサンセットの大通りが流れていた。
 食い付く様に、伊丹は見ていた。ずっと、エンドロールが流れるまで見ていた。
「面白いか?」と、おじさんに聞かれる。
 腕を組みながら、伊丹は納得いっていない様な表情を浮かべた。
「結局、主人公はどちらも選ばなかったのかな」
「それは違うな。彼はきっと、どちらも裏切りたくなかったんだ」
「……うーん」
「ははっ。まだ圭には難しかったかな」
 乱暴に頭を撫でられ、髪型が崩れる。
 むっ、と口と眉を曲げて、おじさんの手を叩いた。
「難しいんだよ。この映画が」
「それは、確かに一理ある」
 おじさんが胡座をかいて伊丹の隣に座る。
 差し出されたラムネを受け取り、暫し余韻に浸っていた。

 親戚のタカシくんの事が、伊丹はあまり好きではなかった。
 バリカンで乱雑に剃り上げた坊主頭で、年がら年中半袖短パンなのではないか――という想像に難くない元気印の彼と、内気な少年の相性はあまりよろしくない。
 しかし、タカシくん側は伊丹のことをひどく気に入っており、帰郷して出会う事があれば、いつも外に連れ出して、二人で遊び歩いていた。
 その日は、親にはあまり近寄るなと言われている山奥にある、タカシくんの秘密基地に案内されたのだった。
 何やら奥の方で物をがさごそと漁っているのを見ていると、取り出してきたのは一丁の拳銃だった。
「警察官からくすねたんだ」と、悪びれもせずに笑って言ったのち、「ロシアンルーレットをしよう」と誘われる。
 順番に引き金を引く、一回目――二回目――三回目、乾いた音が響く度に伊丹は喉を鳴らした。
 四回目、タカシくんが引き金を引くと、銃弾が暴発し、彼の頭部が爆発した。飛び散る血液と眼の前の死体に、伊丹は呆気にとられる。
 脳内を落ち着かせ――ふと、暖房機を動かすための灯油タンクと、隠れて吸っていた煙草用のライターが目についた。
 死体を中心に灯油を巻き、拳銃をくすねて、ライターを着火させて床に落とす。
 すぐに秘密基地から抜け出し、燃える森の中を駆け出した。
 轟々と熱く滾る赤を背景に走り続け、途中の橋から飛び降りて川に避難する。
 しばらくして、荷物の重さから浮かび上がると、仰向けに森の方向を見た。
 このままだと全焼するだろう――と、伊丹は思った。

 結局、無事、ひとりだけ伊丹は生還して保護された。
 家族や親戚一同から、タカシくんについて色々と質問攻めを受けたが「何も知らない。わからない」の一点張りでなんとかやり過ごした。
 そして、それから数日後の夏休み明け、伊丹は憂鬱な気分で始業式へと向かった。