考え中。

現在は、椋崎という名前で活動中。

Viva la Villain 第七話

 宏介の実家に訪れた成瀬は、そこにスマートフォンを構えた、やけに派手な服装の少女がいるのを見付けた。
「もしもーし! あのー、もしもーし!」と、少女は家のドアを何度も叩きながら、叫んでいる。
「ちょっと君、何やってるんだ」と、成瀬が声を掛けた。
「は? あんた誰」
「警察だ」と、警察手帳を見せると、少女は驚き、こちらにスマートフォンを向けてきた。
「おーっと、いせたん。ここで警察官に遭遇でぇーっす」と、作った声で、少女――いせたんは言う。
「……はあ。ストリーマーか」
 肩を落として、溜息を吐いた。
公務執行妨害だ。事情聴取させてもらうぞ」
 怠そうに言う成瀬に対して、少女は大袈裟に驚いて見せた。

 近くの交番を貸してもらって、成瀬はいせたん――伊勢 美波の事情聴取を行っていた。
「だーかーらー、民意なんですってば!」
「何が民意だ。民意なら一般人の生活を脅かして言い訳がない」
 彼女が言うには、犯罪者の親に突撃し、謝罪の言葉を貰うのが理由であった様だ。
 それはSNSや配信サイトで眼にした民意であり、聴衆が興味のあるコンテンツであると語る。
「はあ? 罪人の家族は罪人でしょう?」
「んなわけあるか」
 成瀬は伊勢のスマートフォンを預かり、配信をしばらく禁じる事にした。
「ちょ、返してください! あたしの!」と、抵抗する彼女の頭を抑えつけ、不躾に質問する。
「……それで、何か接触はあったのか?」
「いや、出てきませんでした。ただ、ポストにこれが――」
 と、彼女が取り出したのは一枚のチラシ。
 そこには新聞広告から切り貼りされた文字で、メッセージが綴られていた。
「脅迫状か……」
 ”二宮 宏介を指定の住所まで差し出せ。さもなくば、次の市長パレードの日、選ばれたものを殺害する”――と、書かれていた。
 生唾を飲み込み、緊張の表情を浮かべる伊勢に対し、成瀬は能面のような顔をしていた。

 駅前にある、高く聳えるビルの一角。業都市長室にて、現市長――蜂須賀 秀徳は煙草を吹かしながら、一見、自由であるかの様に散乱とした街並みを俯瞰で眺めていた。
 電話が掛かり、すぐさまに出る。
 秘書の声で「市長、お客様です。警視庁から」と連絡が来て、「通せ」と即答した。
 ドアが開き、入室してきたのは警部補の張戸であった。
「不躾に申し訳ありません、市長殿。私、警視庁から来た張戸――」
「構わんよ、要件は?」
 話を遮ってきた蜂須賀に、少し表情を強張らせて、張戸は説明に入った。
「部下から連絡があったんですがね、巷を騒がせてる殺人鬼の二名……二宮宏介と布袋透の実家に、脅迫状が届いていたんですよ」
「それで?」
「……次期市長の当選パレードにて、テロを行うと」
「それは問題だな。次も恐らく、選ばれるのは私だろうから」
「そうでしょうな。私もそう睨んで、単身、ここに赴いて来たわけですから」
「それで、対価は?」
「両者の身柄です」
「では」と、少し前置きしてから、蜂須賀は吸い殻を灰皿に押し付け、続けた。「捜査の手を更に強める様に、こちらからも警視庁に掛け合おう。それから、パレード当日に警備を増員する様に手配しよう」
「助かります」
「以上かね?」
「はい」と、お辞儀して、去ろうとする張戸を蜂須賀が引き止める。
「ああ、そうだ。君、名前は何だったかな?」
「張戸 淳一であります」
「覚えておこう」
「では……」
 退室する張戸の背中を見送り、蜂須賀は街の観察に戻った。

 業都近郊にある、寂れた外れの道の廃ビル。
 そこまで連れてこられた透は、警戒心を強めながら階段を登って行った。
 途中の行き止まりまで登ったところに、ひらけた一室があり、そこには、真っ白なアオザイにも似た、道化服を着た人々が待っていた。
「これは……?」
「あなたのシンパです。ピエロ様」と、嬉しそうに美鈴が言う。
 たじろぎ、状況が理解できないでいる透に、ひとりの男が話し掛けてくる。
「ピエロ様――わたくしめをお裁きください」
 と、頭を下げる彼に、透は一層、困惑する。
「ピエロ様、この方は幼児への強姦、殺人、そして放火を行い、いままで逃げ延びて来たそうです」
「大犯罪者じゃないか!」
「ええ。然し、あなた様の行動と正義を理解するうち、改心したと言います。今では、立派な幹部のひとりです」
「幹部……?」
「ええ。ピエロ教の」
「は?」
「あなた様の、宗教です」
 笑顔を浮かべて返す美鈴に、透は恐怖する。
 そして、犯罪者の男が膝を付き、透に斧を差し出した。
「これで、わたくしめをお裁きください」
「……っ」
「わたくしは生きる価値などない蛆虫でございます。ピエロ様!」
 周囲からの視線。美鈴の屈託のない笑顔。切迫した声と表情の男。
 追い詰められた透は、斧を受け取り、男の頭を撥ねた。
 血が吹き出し、頬まで跳ねる。
 動悸が早まる。汗が出る。そして、周りからの拍手に、透は言い知れぬ高揚感を覚えた。