考え中。

現在は、椋崎という名前で活動中。

Viva la Villain 第六話

 それは、古い過去の話であり、悪夢。
 オカルトやら噂を信じて、真夜中の公園へと向かった少年達が見たのは、見てはいけないものだった。
 治らない腫瘍の様に、大人になっても彼らを蝕み続ける――それは、ひとつの象徴となって、心の深い所に根付いた。
 例えば、二宮 宏介は、前述の通り、それを夢としてみる。
 毎晩、毎晩、繰り返し。睡眠薬でもなければ、魘されて眠れないぐらいには、それに心が巣食われている。
 昨晩も彼は、眠れず、冷や汗をたくさん掻いて一晩を明かした。

 山奥の掘っ立て小屋。宏介と華飛が隠れ潜む場所。
 その日は朝から慌ただしく、華飛が荷物を整理していた。
「何してるんだ?」――宏介がとぼけた顔で聞く。
「逃げるのよ」
「……警察から?」
「演員会から。ここがバレたのよ、あのピエロに」
「……俺は置いていって良いぞ」
 俯きがちに言う男の手を、少女は思い切り引っ張って叫んだ。
「あなたには敵を討って貰うんだから、死なれちゃ困るのよ!」
 荷物の入った鞄を投げ渡し、「行くわよ!」と言って、小屋の外に出る。
 そこには、黒塗りの高級車が一台泊まれており、中には黒服の男がいた。
 華飛が窓を叩くと、男が頷き扉を開ける。
 流されるまま、宏介は少女とともに車に乗った。

 本庁の一室で資料整理をしていた成瀬と張戸の二人は、ある古い記事のスクラップを見付けた。
「業都中央公園バラバラ殺人事件――知ってます? 張戸さん」
「ああ、今から十七年前の未解決事件だなア」
 それは真夏。業都の駅前にある中央公園にて、ポリ袋に入った人間の生首が捨てられているのを、廃品回収に来た業者の男が発見した。
 駆け付けた警察官複数名が公園一体を捜索したところ、綺麗に切断・処理された人間の手足・胴体が小分けにされて公園内のゴミ箱すべてに入れられていたのが分かる。
 手足の指紋も丁寧に切り取られており、頭部の損傷も酷かったが、DNAから付近のコンビニで働く外国人留学生が被害者と判明。死因は不明だが、首付近に紐の様なもので強く締められた後が残っていた。
 この事件について、目撃証言が極端に乏しく、前日夜はオカルト騒ぎで浮かれていたものが多かった為、公園内の出入りも激しかった。――が、それにしては悲鳴を聞いたというものが上がらなかった。
 また、被害者の人間関係についても疑問な点が多く、犯人として目ぼしい人物を洗い出す事も不可能であった。
 その為、長らく迷宮入りしている。
「……成瀬、この前日に二宮と布袋が出掛けてないか、両方の親に聞いてきてくれるか? 出来ればで良い。もしくは、何かしらの証言がないか掴めれば……」
「分かりました。尽力してみます」
 髪を掻き毟りながら、張戸は椅子に深く座り直した。

 落ち着かない様子で、透はミニバンの助手席に座っている。
 ドアをノックする音に驚くも、入ってきたのが美鈴と知ると、安堵した。
「はい、クレープです」と、差し出されると、物怖じしながらも受け取って、匂いを嗅いだあと、口にした。
 咀嚼して、飲み込んだあと、「おい、大丈夫なのか?」と問い掛ける。
「何がですか?」
「だから――あんな事をして」
「あー、私はもう社会的に終わりですね。死んだも同然です」
「だろうな……。ていうか、クレープ、よく買えたな」
「気になります?」と、彼女が懐から包丁を取り出して言う。それを見て、透は困った様に笑い返した。
「さておき、愛に勝るものなんて、何処にも存在しないんですよ?」
 朗らかに笑う彼女に、透は言い知れぬ気持ち悪さを感じ、理解し難い人の形をしたそれが、自分が産んだ怪物である事を察してしまった。
「どうしたんですか?」と、美鈴が首を傾げる。
「君は、本当に気の毒な奴なんだな」
「え? 今は、とても幸せですよ? そりゃあ、不幸な事はありましたけど」
「そういう事じゃない。……何処に向かってるんだ?」
「あなたを崇めるもの達の集会所です」
 言いながら、車を動かし始める。
 透の感じる落ち着かなさは、増すばかりであった。