業都を襲った恐ろしいテロから17年。
事件の主犯としての役目を被った二宮 宏介は、遂に終身刑となり、その生涯を終えた。
老人ホームにて、アルツハイマーとなり、言葉もろくに交わせなくなった自身の義父――張戸 淳一と食事をともにしながら、大学生の張戸 漂馬はテレビを眺めていた。
一連の事件に関し、議論に熱中するコメンテーター達を捉える青年の眼は、どこか仄暗く冷たかった。
テレビをリモコンで消し、漂馬は椅子から立ち上がる。
「じゃあ、おじいちゃん。また、今度」
返事はない。それでも、自分の命の恩人に対し、笑顔を浮かべ続ける。
老人ホームをあとにし、銀行へ向かう。
バスの停留所でニュース記事を読み漁っていると、大学生がグループでやってきた。
「ねえ、知ってる? 最近、ピエロ教の活動がまた活発になってきたんだって」
「えー、怖」――などと、取り留めのない会話を盗み聞きしていた。
インターネットのニュースサイトでも、アクセス数のトップに位置する話であった。
布袋 透の死後、生き残っていた冠城 美玲は密かにピエロ教の運営を続け、17年経った今でも、主宰として教徒をまとめあげている。
有名なカルト宗教として、様々な組織にマークされているが、今現在、その根城は割れておらず、密教徒も多いため、壊滅には至っていない。
然し、時々過激化し、大事件を起こす事から、世界中から恐怖の目を向けられている。
漂馬もまた、彼らとは浅からぬ縁があった。
バスが到着したため、定期券を出し、乗り込んだ。
奥にある窓際の席に座って、またスマートフォンを取り出し、今度はSNSを眺める。
隣に挙動不審な男が来た。サングラスを掛け、ニット帽を深く被り、大きめのリュックに厚手のコートを着ている。
バスが走り出すと、男は懐から拳銃を取り出し、漂馬の額へ向けた。
悲鳴が上がる。
すかさず漂馬が男の腕を掴み、手をはじいて拳銃を落とさせ、関節技を決めて無力化した。
周りから感心の声と拍手喝采が送られる。
停車したバスから降り、「僕が警察に連れていきます」と言って、男を連れて、漂馬は歩き出した。
しばらく鈍く歩き、バスが発車したのを確認すると、物陰で男の首を締め、奪った拳銃で発砲して殺害。そのまま銀行へ向かっていった。
銀行の周りにはパトカーと武装した警察官が並んでおり、騒ぎになっている。
銀行強盗が起こったためだ。
裏口の場所を確認すると、覆面を被り、手袋をし、そこへ向かって行った。
翌日、ある一つのニュースが巷を騒がせた。
ピエロを模した覆面の青年が、バスジャック事件の犯人と銀行強盗を射殺し、逃亡中。